SUMMIT REPORT
自動運転技術の社会実装を推進するティアフォーは2021年4月、「Tier IV SUMMIT 2021」を初開催し、さまざまなセッションを通じて、同社の「現在」と「未来」が語られた。
この記事では、工場内物流ソリューションの提供に向け、同社とヤマハ発動機が設立した合弁会社「eve autonomy」(イヴオートノミー)の取り組みを紹介するセッションを取り上げ、その中身を要約してお届けする。
(※この記事はモビリティ業界テック系ニュースメディア「自動運転ラボ」編集部提供です)
セッションでは、eve autonomy代表取締役CEOを務める米光正典氏と、同社の事業開発をリードするティアフォー事業本部の田中淳氏、ティアフォーから同社に出向しIntegration Engineer Leadとして製品開発をリードする石川寛朗氏がスピーカーとして登場した。
はじめに、米光氏がeve autonomyの概要を説明した。同社は、自動運転技術を使った自動搬送ソリューションの提供を目的に、ヤマハ発動機とティアフォー出資のもと2020年2月に設立された。
2018年10月にスタートしたヤマハ発動機とティアフォーの共同開発プロジェクトがきっかけで、2019年7月に浜北工場の建物間でレベル3技術による自動搬送を開始。本格的な事業化に向け合弁会社を立ち上げ、2020年8月にはレベル4の運用を開始した。
2021年3月に2カ所目となる天竜工場での導入を開始したほか、9月にはヤマハ発動機以外の工場でパイロット導入を進め、2022年4月に商用サービス化する計画を打ち出している。
ここからは、対話形式でセッションの内容を紹介していく。
セッションにおける最初のテーマは、ヤマハ発動機の浜北工場で自動搬送ソリューションを導入した効果についてだ。
田中氏「浜北工場では、作業員がタッチパネルで目的地を指定する。工場内の自動シャッターなどとのインフラ連携も行っている。通路上の作業員や障害物を認識して定位する安全機能も備わっている。運行管理者向けにコンソールも用意しており、どこでどの車両が何をしているのかもご覧いただける。浜北工場ではどのラインで導入され、導入前後でどのような変化があったか」
米光氏「浜北工場には建物8棟、従業員750名が働いており、24時間エンジン部品を作っている。導入前は混雑したような状態でトラックやフォークリフトで部品を乗せたり降ろしたり人手による作業をやっていたが、これを自動でやることで安全・確実にモノを運ぶことができるようになった」
田中氏「お客さまから屋外で自動搬送できるものはなかなかないという声もよく聞くので、ビジネス的には自信を持っている。うたい文句としてはお手軽、パワフル、フレキシブルの3点がある。インフラ工事など必要なく導入が簡単で、持っていったその日から運転できる。パワフルはゴルフカーの性能や信頼性に起因するところで、1.5トンまでけん引できる。導入後にルート変更などの微調整もできる」
ティアフォーで事業開発を担当する田中氏から「今日から、自動化」という合言葉が紹介された。いったいどういう意味なのか。
田中氏「全員が目指している合言葉・テーマに『今日から、自動化』がある」
米光氏「当時、浜北工場に自動運転導入を検討する際、しっかりした準備が必要で、お金も時間もかかるし、そう簡単にトライできないと考えていた。ある時、ティアフォーの『アカデミックパックPRO』でヤマハのゴルフカーを使っていて、この車両はパワフルで自動運転もでき、これにモノを引かせれば――というアイデアが生まれ、ティアフォーに声をかけた。そして車両を持ってきていただき、地図を作ってルートをセットしてパラメータ調整まで4時間くらいだったと思うが、その日のうちに自動で走った。それがものすごく衝撃で、今日来て今日できたというインパクトがずっと残っていて、『今日から、自動化』をキャッチフレーズにした」
田中氏「生産設備としてその日から導入できるのは新しく、訴求力があると思う」
米光氏「工場は24時間稼働しているので、雨天や夜間でも動かなければならない。1年以上自動運転で部品をけん引しているが、雨が原因で止まったことはなく、問題なく走っている」
続いて、自動搬送ソリューションのプロトタイプについて話題に上がった。当初は市販のゴルフカーをベースにしていたが、現在はサイズを縮めた車両を開発しているという。
田中氏「プロトタイプについて説明を」
石川氏「最初は市販のゴルフカーをベースにしていたが、日本の工場は狭い場所が多く、大きいゴルフカーから性能はそのままにサイズを縮めた車両の開発を進めている。新たにセンサーの構成なども工夫している」
田中氏「実用化に向けてビジネス性・採算が合うようにセンサーにお金をかけるのはリミットがあるが安全性は犠牲にできない。そのあたりの開発は?」
石川氏「安全は一番大事だが、コストが見合わなければ製品として導入してもらえない。コストと安全性の両立を常に考えている。現在は、センサーの構成として自己位置推定用には従来のLiDAR、障害物検知には最近出てきた安価で高性能なものを新たに採用したりしている」
田中氏「実際の運用についてはどうか?」
米光氏「最初はゴルフカーでスタートしたが、いろいろな工場を見ると通路はそんなに広くない。ゴルフカーは軽自動車より小さいが4人乗りでそれなりに大きく、工場の中も走らせるには大き過ぎる。そのため約30%コンパクトにした。また、工場の中では一般車両も走っているので、速度制限20キロの中、ある程度遠くまで見られるセンサーが必要になる。実際の工場を見て必要なサイズやセンサーを選んで開発を進めている。実際それを使いながら、どこまで車両で安全性を担保できるか、あるいは運用上、どういった使い方をすれば安全に使うことができるかバランスをとって、リーズナブルなコストで提供できるよう考えている」
田中氏「ヤマハの『やらまいか精神』。工場全体として自動搬送車両をどんどん走らせてくださいと言っていただいたのが心強かった」
米光氏「工場のトップが何としても導入すると強い意志で、多少のことは気にするなと。1年以上走っているが、人やモノにぶつかったことは一度もない。ヒヤリハットはあるが、車両をちゃんと設計しルールを決めて守ることで、安全に運用できることは確かめられた」
現在はプロトタイプの開発・運用を行っているが、実用化に向けては高い安全性が確保されている状態にならなければならない。この点については石川氏はどう考えているのか。
田中氏「実用化に向けた安全性についてはどう考えている?」
石川氏「開発にあたっては安全性と品質を一番に考えている。ゆくゆくは工場の生産の中で使われるもので、停止することなく24時間365日走り続け、しかも安全でなければならない。シミュレーションで動作確認など行っているが、現場に持っていくといろいろと違うこともある。例えば、夏の打ち水。打ち水の影響でLiDARの精度が低下してエラーが出て苦労した。また、秋にはトンボが結構飛んでいて、これを障害物として検知して停止することもあった」
田中氏「想定外の事象が起きたとき、ティアフォーとしてどのように解決しているのか」
石川氏「現場の声を聞いて問題を解決していくのが一番だが、あくまで自動運転として、Autoware(オートウェア)としてどうあるべきかを常に考えている」
セッションでは続いて、浜北工場と天竜工場でそれぞれ導入されているソリューションの違いなどに、話が進んだ。
田中氏「第2拠点の天竜工場の運行方式は?」
米北氏「天竜工場では小型化した新しい車両を導入している。決まったルートを決まった時間に走行する定時運行の浜北工場とは違い、いくつかあるルートを必要に応じて選んで走る呼び出し運行方式にトライしている」
田中氏「自動運転の切り口から言うと、(浜北と天竜)2つの工場はどのように違うものなのか?」
石川氏「浜北工場は走行区間もそれほど長くなく、ほかの人や車両もそれほど多くない場所。一方の天竜工場は面積が広くほかの作業車や搬入トラックの往来が激しく、システムから見ると複雑な環境になっている。導入時一番大変だったのは、地面の凹凸が結構大きく、障害物として検知してしまうことがあった。また、道路にモノが置かれていることも結構あり、それを検知して止まることも最初はあった」
田中氏「理想を100点としたとき、今のレベルはどこまで来ているのか?」
石川氏「人が決めたとおりに運行することを第一目標としているので、その意味では50点くらいまで来ている。ただ、システムは障害物の3メートル手前で止まるよう設定されているが、人間であれば動きそうなもの、切り替えしてきそうなものだったら融通を効かせて距離を空けて止まる。ゆくゆくは自動運転システムも柔軟に認知判断できるようにならなければならず、その意味ではまだ始まったばかりで20点もいかないと思う」
田中氏「走行環境は工場によって異なる。そういったものもスムーズに対応できるよう進化させていければ。モノが置かれている場所が変わりやすい、環境変化が大きい屋内で使えないかとお声掛けいただいたこともある。我々は適応できるエリアをどんどん広げていけるのも強みかなと」
セッションの最後に語られたのが、今後の展望と企業としてこれから達成を目指すことだ。
田中氏「将来、どういったところを目指していくのか。先ほど50点、20点という話があったが、100点はどういった世界で、どのように目指すのか」
石川氏「まずは決められたとおりに走ることを達成し、そのためには品質と安全性が大事。現場で走らせられる回数は限られているので、シミュレーションで品質を向上させる仕組みを今後導入していきたい。品質と安全性を十分に上げられたら、人間のように柔軟に認知判断できるようにしていきたい。そこまで来れば、ぜひ日本以外の国にも提供していけたら」
米光氏「まずは2022年の一般向けサービス、事業化を最初の目標にしている。事業化により、使われて磨かれていくところがあると思う。より品質や性能が上がり、コストも下がっていく。続けていくことでしっかりしたものになる。その後、日本のマーケットの10倍以上ある海外展開できるよう品質を高めていければ」
田中氏「さらにその先、テリトリーを広げて閉鎖空間から公道まで対応し、関係者の負担を少しでも減らしていければ」
田中氏「ヤマハ発動機とティアフォーがくっついてできたのがeve autonomy。この点については?」
米光氏「ヤマハ発動機は製造業なので、しっかりした品質のものを安く作っていけばお客さまに買ってもらえるだろうとやってきたが、世の中が変わってきており、新しい価値の創出や、世の中に合ったものを提案していかなければならない。ヤマハ発動機の製造業の強みと、ティアフォーの技術を組み合わせることで新しい価値が生まれる。これを共同開発ではなく会社を作って一緒にやれていることがハッピー」
田中氏「スピード感もかなり早い印象」
米光氏「2年で新しい事業を起こすのは普通ではあり得ないが、時間をかけていると世の中の方が先に変わってしまう。期限を決めてそこまでやり切ろうと目標に進んでいるところ」
田中氏「まずは2022年の商用化をターゲットに、さらにその先も事業領域を拡大していきたい」
自動運転は公道を走行するタクシーやバスなどに注目が集まりがちだが、閉鎖空間である工場内では実用化がすでに始まっており、2022年には商用化を見据えた取り組みも本格化することが分かった。
こうした閉鎖空間において蓄積したさまざまなデータを、公道を走行するタクシーなどの自動運転化に役立てることが可能な点も「Autoware」の利点の1つだ。局所的な取り組みが自動運転技術全般に渡る社会実装を加速していく点にも注目していきたい。
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